シリコンバレー在住のジャーナリスト、瀧口範子さんが、生で見聞きした「シリコンバレーの人々」の思考や生活。当地にはIT企業やネットバブルの立役者たちが、実際に生活している。グーグルやヤフーの新規事業や商品戦略はたまたM&Aなどの噂は、いろんなレポーターから知ることができるが、いったいこの町はどんなところか、立役者の暮らしぶりがどんなものなのかを窺うことはできなかった(そんなことにだれも関心を持たなかった!)。
著者はこの町に移り住んで10年を超えるうちに「当初〈企業精神〉というひとつの物語しか見いだせなかった」が、住人たちの生活のすみずみにまでおよぶ楽観性を感じられるようになった、という。ITやヴァーチャルを担う人々は、日常生活にもアイデアや合理性をつぎ込んでいるのだというのだ。
書名にもなった、資源ゴミを「分別しない」方式。その考え方は「効果と結果重視の実証主義的アプローチ」だという。ヤフーの「スタンドアップ・ミーティング」(軍隊の朝礼式短時間会議)、iPhoneを買おうとする行列に集まる物売りや蔑みなど、日常生活の中にしみ込んだライフスタイルの徹底ぶりがつぎつぎに披露される。もちろん、ここの住人は、エリート中のエリートを集めるグーグルのリクルート作戦やネットバブル成功者によるフィランソロピーなど、シリコンバレーをますます切磋琢磨することを忘れている訳ではないのだが、実に「この」地に足が着いているではないか。
中でも驚かされる話は「ストロング・エンジェル」という軍の緊急時技術動員予行演習(ドリル)。「自然災害によって伝染病が起こり、さらにこの機会につけこんだテロリスト・グループが通常の通信網を破壊した」というシナリオに対して、グーグルやインテル、マイクロソフト、IBMなどから技術者が手弁当で屋外倉庫に集まり、それぞれが「アドホック」な対策を立て、一日のうちでとにかく何かを作り上げてしまう。この町ならではの創造的で大人なワークショップだ。
こんな出来事がつぎからつぎにおこる町だったのか! ITだ、ウェブだ、ヴァーチャルだ、ということだけで理解したつもりになっていたシリコン・バレーは、たしかに町の生活も含めてアグレッシブなわけだ。とはいうものの、ティム・オライリー(Web 2.0)やルーカス・フィルムの制作部門は田園生活のなかにあるらしい。
技術にしても、ビジネスにしても先端だけのレポートで右往左往しているわれわれには、驚くべき事実が(というほど大げさではないが)つぎつぎに明かされるのだが、なるほど、町の生活や日々の暮らしというあたりまえな視点を持たないことには見えてこないことばかり。
この町発の、便利さ、新規さだけを追い求めてきた(受け取っていた)われわれだが、それが毎日の生活のなかでどうやって使うか、それでほんとうに楽しめるのかというあたりまえなことを、確かめてみなきゃいけないってことが、つくづく思い知らされた。
著者は、レム・コールハースや伊東豊雄へのインタビュー本を纏めるデザイン、建築にも造造詣が深い。なお、本書のもとになった「シリコンバレー通信」は下記で継続中:
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070222/262978/